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【連載】「カンボジア漂流記」特別編 その3 斎藤雅之
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現在カンボジアはエイズの猛威に直面している。ポイペットだけでもその実態は掴
めていない。だが大変な数の感染者がいることだけは間違いない。その感染の原因の
ほとんどは売春とされている。夕暮れ以降、広場にはたくさんの若い女性たちが客の
男性を求めて群がっている。カンボジアでは少女買春が横行している。12才くらい
と思われる女の子までその的になってしまっている。当然カンボジアの法律で売春は
禁止されている。しかし検挙されるのはほんとうに極一部の人間だけで、ほぼ無法地
帯となってしまっているのが現状のようだ。
CCHOMEでは3人の孤児を引き取ってポイペットで一緒に生活している。その
うちの一人、スレイリアップという女の子の母親もエイズで亡くなったのではないか
とされている。幸いにもこの子は感染していないとの検査結果が出ている。今ではC
CHOMEのアイドルとして君臨している。オカサンは新たにエイズ孤児の支援をし
たいと常々語っていた。プノンペンでエイズ孤児やストリートチルドレンの子供たち
を対象とした駆け込み寺のような感じのものを作ろうと考えていたようだ。ただ新し
いことを始めるには資金の問題もあるしプノンペンに長期で滞在しなければならない
などのことがネックとなって実行まではまだ時間が必要であろうと私は思っていた。
ところが8月のある日、オカサンとツアーで来ていた人たちがモンコルボレーの病
院に行ったことから話が突如として動いた。この病院にはエイズ患者の病棟があり、
それを見たオカサン、感情を抑えきれなくなったらしい。その数日後に病院から一人
の女性が亡くなり、その子供が一人残されているとの連絡が入ると、お父さんと出か
けていきその子を引き取ってきた。その子の名前はヘインといった。3才の男の子で
ある。その数日前オカサンからヘインの母親の容態に関しては聞いていた。ベッドで
はなく廊下に置かれたござの上に寝かされた状態だったという。衰弱しきっていて一
人では排泄もできない様子で、それを世話する人間もいないし、なにより死ぬとわか
っている人間だからベッドから移した、というのが病院側の意見だったらしい。とん
でもない話である。私はその話を聞いて大いに憤慨した。それでも最後まで患者のた
めに全力を尽くすのが医者の仕事ではないのか?
オカサンとお父さんはヘインの親族を探して引き取ってもらおうとしたらしい。と
ころがうまくいかなかった。なぜならエイズはカンボジアでは忌み嫌われた病気で、
もし周辺の人間に家族からエイズの感染者、死者が出たなどと知られたら村八分にな
ってしまうのである。ただでさえ貧困で苦しんでいて毎日の生活が精一杯の家族が多
いのだ。そこに家族が増えることも歓迎されるわけがない。結局親族は見つかったが
引き取ってもらえる状況にはないと判断してCCHOMEで面倒をみることになった
わけだ。
この日を境にこの病院からは患者が亡くなるたびに連絡が入るようになった。ここ
の院長はオカサンに盛んに「私を日本に連れていってくれ。」とアピールしてきた。
日本のNGOに頼めば日本に行って勉強できるとでも思ったのだろうか?「自分の病
院のことすらちゃんと把握できていない中途半端な人間をどうして連れていくことが
できようか?」オカサンはかなり怒りを込めてそう吐き捨てていた。
ヘインが来てから数日後もう一人の孤児となった男の子がやってきた。名前はリー、
8才と本人は言っていたが明らかに14才くらいの大柄な男の子である。この子の場
合は親族が誰もいなかった。行くあてが全くなくなってしまったこの子もやはりエイ
ズで母親を亡くした。リーを引き取りにいくときは私も一緒に病院に行った。エイズ
病棟には全く明るさを感じなかった。重苦しい雰囲気だけが漂っていた。ここにいる
患者たちは近い将来必ず死んでしまう・・・そう考えるとなんともやりきれない。
エイズ患者に罪は無い。長い内戦が招いた貧困のせいで生活するために売春の道を
選ばざるを得なかった人たちばかりだからだ。そして今でも買春だけを目的にカンボ
ジアを訪れる外国人たちがこの元凶となっていることは間違いない事実である。今日
も買春を目的にカンボジアをたくさんの外国人が訪れていることだろう。日本人の客
がかなりの割合を占めていることも忘れてはいけないことだ。
へインとリーは今では兄弟のように仲良くCCHOMEで生活している。二人とも
エイズには感染しておらずとても元気だ。オカサンはこのポイペットの宿舎にはもう
孤児は連れてこないと言った。確かにこんな感じで孤児の数が増えていくとここでは
限界がある。また違う土地で是非この問題に取り組みたいとも言っていた。カンボジ
アのエイズ問題はほんとうに深刻である。カンボジア人にエイズに関する知識が少な
いことも原因となっている。早期に対策を採らなければならない。そのためにも幼い
頃からエイズとは怖いものだけど防ぐことはできるということを学ばせなければなら
ない。そのための寺子屋活動でもある。
子供たちが将来幸せになってくれることを望んでの活動なのだから・・・。