コラム
米と魚と共に生きる−東南アジアの人々
大坂佳保里
東南アジアの大陸部を地図で見ると、島嶼部との違いに気が付くだろう。北部の山岳地帯、そこを源として海へと注ぎ込むエ−ヤワディ、チャオプラヤ−、メコンなどの長大な大河、そしてその河口部には大デルタ地帯が広がっている。また西にインド、北に中国と2大勢力の影響を常に受け、さらにタイを除いて19世紀にはイギリス、フランスによる植民地時代があった。この地域は多くの民族によって構成されているが、既存の文化は自然環境や歴史的な経緯の中で多様な文化と融合しながら、地域色豊かな食文化を形成してきた。
さて、東南アジアの食には2つの主役がある。雨季と乾季が明確な熱帯モンス−ン気候と広大なデルタ地帯を背景にした米、トンレサップなどの湖や無数の支流を持つ大河、そして沿岸海域で採れる豊富な魚である。米の種類は多く、東南アジアの女性を思わせるようなすらりとしたインディカ種、ふっくらとしたジャポニカ種、ウルチ米とモチ米、色も御馴染みの白色から赤褐色、黒紫色とバラエティに富んでいる。北部の山岳地帯は蒸したモチ米が食べられているが、お赤飯を思い浮かべるような薄紫色のものもある。竹の中にモチ米とココナッツミルクを入れて焼く竹筒飯は、携帯食としても重宝だ。南部はインディカ種のウルチ米が食べられ、炊き方はいったん沸騰した湯を捨てて再び火にかける湯取り法で、粘り気のないポロポロとしたご飯になる。米の加工品もたくさんあるが、中国の影響を色濃く残しているものとして麺製品がある。米粉からビ−フンやきしめんのように平たいもの、素麺やうどんのようなものと形や太さも様々な麺が作られている。これらは屋台などで朝食やスナックとしてよく食べられており、まさに東南アジアの外食の王様といえるだろう。
もう一つの主役である魚は一般に淡水魚のほうが好まれる傾向にあり、日常のおかずとしてよく食べられている。雨季に大量に捕獲される淡水魚を中心に、塩漬魚や干物など様々な保存食品が作られる。その代表格が東南アジアの伝統的な調味料である魚醤や魚醤油で、おふくろの味作りには欠かせない。料理に独特の旨味や風味を与えると共に、時にはご飯のおかずとして動物性タンパク質の供給源ともなってきた。
市場を歩くと米や魚はもちろん豊富な食材がならび、宝探しをしているような楽しさがある。そして北部地域に歩を進めると、なんとも懐かしい食材に出会う。モチやチマキ、豆腐や納豆、漬物、コンニャクなどである。2大主役の共演ともいえる鮨の原形として名高いナレズシもある。まさに日本文化のル−ツとして注目されている照葉樹林文化圏に足を踏み入れたことをヒシヒシと実感することができる。
東南アジアに花開いた豊かな食文化に触れることは、食いしん坊には見逃すことはできないし、さらに日本文化の再発見にもつながるのではないだろうか。
(『ツ−リスト情報版 119 カンボジア』 近畿日本ツ−リスト・クラブツ−リズム事業本部発行より転載)