表紙へもどる

<参考資料>

「ジプシー」と差別について

「ジプシー」という呼び方

 ヨーロッパを中心に移動生活をする民族をひとまとめにして「ジプシー」と呼んだり、また居所や職業を転々と変える人を比喩的に表すときに「ジプシー」という言葉が使われてきました。また、日本の旅行ガイドブックなどにも、「ジプシーの子どもたちには気をつけるように」といった記述がいまだにみられます。しかし、この呼び方は、移動生活者に対する偏見や、現在は定住しているものの差別や迫害を受けている人たちへの偏見を助長するおそれがあるため、他の呼び方を採用し、正しい認識を深めることが必要になっています。

 彼/彼女たち自身は、侮蔑的な意味合いを持つ差別呼称である「ジプシー」という呼び方を好まず、例えば、ロマあるいはロム、またはスィンティと称しています。日本でも、「ジプシー」という呼称をやめ、スィンティ・ロマと呼ぶようにするはたらきかけがあります。 


ロマ民族に対する差別と迫害の歴史

 ロマはインド北西部発祥の民族で、15世紀前半までに中央ヨーロッパにたどり着き、現在は広く欧州各地に住んでいます。欧州では、「異教徒」として早くから差別と迫害の対象となりました。

 歴史的に、ロマ民族の非定住生活は民族の「習性」なのではなく、社会的差別の結果、余儀なくされた生活様式なのです。15世紀以降のヨーロッパでは、「異教徒」であるロマ人に対して各領主は次々と「国外追放令」を発し、捕らえられたロマ人は「犯罪者」として極刑を含む刑罰の対象となったのです。そのため、ロマ民族にとって「安住の地」となる地域はどこにも存在せず、自らの生命を守るために国から国へと逃亡生活を繰り返さざるをえませんでした。

 これが、現代まで続く「ジプシーは漂浪の民」という根強い偏見を生み、ロマ人の定住を頑強に拒絶する、多数派国民の排他主義に直結しているのです。ナチス・ドイツ時代には徹底的迫害を受け、ユダヤ人と同じく強制収容所に送られ、少なくともヨーロッパ全域で50万人のロマの人々が虐殺されました。


ロマ民族の現状

 現在も強制追放や隔離、襲撃などの事件が後を絶たず、厳しい差別が続いています。多くの国々で少数民族としての権利を認められず、独自の文化・言語を保持、発展させる機会を奪われています。少数民族としての保護もなく、移動や行商の制限を受たり、生活、福祉、教育、職業などあらゆる面で不利益を被っています。大半は都市のスラムに定住し、多くは劣悪な住居環境におかれ、勉学の機会を奪われ、そのため中高年のロマ人の多くは非識字者となっています。

 現在、大半のロマ人は定住しています。よって、ロマ人を放浪民族として「ジプシー」と呼ぶことは事実に反しています。また、一部、半定住や移動生活を送っている人たちもいますが、現代社会の「移動生活者=犯罪者」という強い偏見にさらされています。日本も批准している国連市民的及び政治的権利に関する国際規約第12条に「移動の自由」が規定されているにもかかわらず、定住所がないことは現実生活の上でたいへん不利益になります。


偏見・固定観念をなくして下さい 

前述のように、ヨーロッパの大半の国々で、ロマは少数民族としての十分な保護を受けることができず、長い間、偏見や差別、迫害の下で困難な生活をおくっています。それは彼/彼女たちの責任ではなく、むしろ国家の責任なのです。

 「ジプシー=移動生活者」「ジプシー=犯罪者」として、ある人間集団全体をひとまとめにした考え方や表現をしてしまうことは、その人たちに対する誤った偏見や固定観念をひろめることになり、差別や迫害の増大につながるので注意が必要です。

 ドイツでは、「ドイツ・シィンティ・ロマ中央委員会」が中心となって、1997年にハイデルベルグにスィンティ・ロマ資料・文化センターを設立するなど、差別や偏見をなくすための取り組みを続けています。そのような努力に逆行することのないよう、日本でも「ジプシー」という呼称やそれに伴う偏見をなくす取り組みが必要です。